ステーブルコイン

テザー、米国規制下の新ステーブルコインUSATを発表─信頼・透明性重視の次の一歩

USAT

デジタル通貨の世界では、規制対応と透明性がユーザーや投資家にとって非常に重要なテーマです。世界で最も利用されているステーブルコインの一つ、USDT(テザー)がその基盤ですが、アメリカ市場に特化したより明確な規制準拠のトークンとして、新たに発表されたのが「USAT」です。2025年9月12日、テザー社はGENIUS法などアメリカの法制度をクリアする形で、USATを年内に発行する計画を明らかにしました。この記事では、USATとはどのようなステーブルコインなのか、USDTとの違い、運営体制、規制上の位置づけなど、判明している事実を整理します。

USATの概要と特徴

以下、現時点で判明している主なポイントです。

項目 内容
正式名称 USAT(Tether USATなど呼称される)
発表日 2025年9月12日(ニューヨークでの発表)
発行目的 / ターゲット アメリカ国内(米国居住者・企業・機関投資家等)向け。既存のUSDTを補完する位置づけで、米国の決済・金融インフラの中で活用を想定。
規制準拠 新しく成立した「GENIUS法」(ステーブルコイン発行者向けの連邦規則)に準拠するよう設計。コンプライアンス基準・準備金要件などを満たす予定。
発行者および準備金管理者 発行者は Anchorage Digital(暗号資産銀行、米国規制下)  。準備金の管理は Cantor Fitzgerald が担う。
運営体制 / 担当者 – テザー社のアメリカ部門を新設 – CEOに Bo Hines 氏を任命(元ホワイトハウス暗号資産政策のアドバイザー)
立ち上げ時期 年内(2025年末)発行を目指す予定。具体的な開始日時は未公表。
特徴・差異 USDTと違ってアメリカの規制枠組みにより近い設計USATは利回りを提供するタイプではないとの見方(利回り機能は含まれない)  ドルに裏付けられた資産の透明性・準備金の管理・監査対応が重視される発行体・管理者に米国ベースの組織を用いることで、法的責任の所在や規制への対応が明確になることを目指す
拠点 USATチームはノースカロライナ州シャーロットを拠点にする予定。

期待とリスク

期待できる点

  1. 規制リスクの低減
    米国の新しいステーブルコインに関する法律(GENIUS法等)に従って設計されているため、規制当局との摩擦が少なくなる可能性が高い。透明性や監査を通じて信頼性を高められる。
  2. 信頼性と透明性の向上
    準備金の管理を専門の金融機関が行う、発行体が明確、発行地が米国であることなどが「ステーブルコイン=信用賜るもの」という期待に応える要素。
  3. 機関投資家や企業の利用促進
    USDTだけでは抱える規制・法的位置づけの曖昧さを解消することで、大口/制度上の制約があるユーザー層の採用が進む可能性。
  4. ドルのデジタル時代での地位維持
    テザー側も「ドルの持続的力を深く信じている」と述べており、USATはドルが金融・決済・デジタル資産の世界で中心的位置を保つための戦略的道具ともいえる。

注意・リスクの可能性

  1. 監査・準備金の実効性
    「準備金に裏付けられている」という表現はされているが、その中身(どの資産か、どの程度流動性があるか、監査報告がどのように公開されるかなど)がこれからの鍵。透明性に関する具体性が重要。
  2. 規制の変更リスク
    米国は暗号資産・ステーブルコインの規制を進化させている最中であり、法律・規制の要件が変われば、それに対応する必要。テザーとしては準備が必要。
  3. 競合との競争
    USDT、CircleのUSDC、各国発行のステーブルコインなど既存の強力な競争相手がいる。USATが差別化できる要素(信頼、規制準拠性、使い勝手、コスト等)がどれだけ市場に受け入れられるか。
  4. 市場の受け入れと流動性
    特に初期は取引所やウォレット、決済インフラなどでUSATがどの程度使われるか。流動性が十分でなければスプレッドや取引コストが高くなる。

USDTとの比較

比較対象 USDT(従来のテザー) USAT(新ステーブルコイン)
法的・規制上の枠組み 多国展開。米国外での利用も多く、国によって規制状況が異なる。監査・準備金公開に関する批判・懸念もこれまでにあった。 GENIUS法などアメリカの法制度に準拠。発行・準備金管理・公開性が明確になる設計。アメリカ国民/機関向けに特化。
発行・管理体制 テザー社中心、複数の提携先を持つが、米国国内法的に完全に整備されているとは見なされていない部分あり。 Anchorage Digital が発行者、Cantor Fitzgerald が準備金管理。米国拠点の機関が明確に関与。責任の所在・監督がはっきりする。
ターゲットユーザー グローバル。個人・法人・取引所など。規制・法的リスクのある国でも使われることがある。 主にアメリカ国内の企業・機関投資家・金融インフラ。規制対応を重視するユーザー層。
利回り/収益性オプション 一部のUSDTのサービスでは間接的に利回り的な使用がされることもあるが、USDT自身が利回りを提供するものではない。 USATは、現時点では利回りを提供する設計ではないと報じられている。

今後注目すべきポイント

  • USATの準備金資産の詳細(米国債・現金・コマーシャルペーパー等)、流動性の程度、監査の頻度と報告形式
  • 米国の金融規制当局(SECやFinCENなど)からの認可・承認状況
  • USDTとの関係性、およびUSDTがGENIUS法にどう適合させていくか
  • USATが利用可能な取引所・ウォレット・決済サービスの幅
  • 他のステーブルコイン発行体(Circle, Paxos 等)の対応・競争戦略

日本・アジアへの影響と可能性

以下、日本あるいはアジア全体において USAT の登場が及ぼしそうな影響や注意点を整理します。

前提条件・規制環境の違い

  • 日本では、暗号資産に関する法律・金融庁の規制が比較的厳しく、特にステーブルコインの発行・流通についてはマネーロンダリング対策や資産保全、銀行法との関係などで慎重な審査があります。
  • また、「外国発行のステーブルコインを国内でどう扱うか」「国内取引所がそれを上場できるか」「税制・決済機能での扱い」など、多方面で制度的な整備が必要です。

可能な影響と機会

  1. 利用の拡大
    USAT がアメリカの規制に完全準拠して設計されることで、特に国際取引や国際送金を扱う日本の企業/金融機関からの関心が高まる可能性があります。ドルベースの取引・決済手段として信用を得られれば、為替コスト・送金コストの削減に寄与するかもしれません。
  2. 競争圧力の増加
    既にアジアや日本で使われている USDT や USDC などのステーブルコインには、「どの資産で準備金を持っているか」「どの法域で発行・規制されているか」が差別化要素になってきます。USAT のような「強い規制準拠性」がアピールポイントになることで、これら既存ステーブルコインにも透明性・法令順守性の強化が求められるようになるでしょう。
  3. 送金・決済インフラへの影響
    時差・規制差を超えて、アジア─米国間あるいはアジア内でのドル建ての支払いがデジタル通貨を介して迅速に行なえる可能性があります。USAT が信用を得て、取引所・ウォレット・決済サービスで対応されれば、コスト・手数料の低い支払い手段となるかもしれません。
  4. 規制対応のモデルとなる可能性
    USAT の制度設計・運用が成功すれば、日本を含む他国が「自国・地域のステーブルコイン発行・運用ルール」の策定時に参考にするケースが増えるでしょう。たとえば、準備金の流動性基準・監査制度・発行体の登録要件等で、アメリカのモデルがベンチマークになり得ます。

懸念点・課題

  • 日本国内では、ステーブルコインを巡る法整備が完了していない部分があり、USAT をそのまま利用するには法律・税制の適応が必要。国外発行のステーブルコインの流通・交換・送金等で規制上の制約がある可能性があります。
  • 為替リスクや信用リスクも無視できません。USAT は米ドル準拠ですが、日本円とのレート変動、外貨コントロール等の影響を受ける可能性がある。
  • 技術インフラや採用面の壁。日本国内の取引所・ウォレットプロバイダー・決済業者が USAT を取り扱うかどうかは、規制・ライセンス・コスト・セキュリティ等の条件によります。

まとめ

テザー社の新しいステーブルコイン「USAT」は、規制対応・透明性・責任所在を重視した米国市場向けの設計を備えており、USDTを補完する存在として期待されています。GENIUS法準拠という枠組みによって、米国におけるステーブルコインの信頼性と法的位置づけを強化し、企業や機関投資家からの支持を獲得することが狙いです。

ただし、その成功には、準備金の中身と管理方法、監査の透明性、規制当局からの承認、そして市場の受容性など、まだ明らかでない要素がいくつか残っています。USATが本当に「ドルのデジタル時代における信頼の基盤」となれるかどうかは、これらの点での実績が今後問われることになるでしょう。

今後もUSATに関して新しい情報が出てきたら、内容をアップデートして追っていきたいと思います。

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Shota
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2017年末から暗号資産に投資してます。 ビットコインを始め、アルトコインについても情報発信していきますので、よろしくお願いします。