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エルサルバドルのビットコイン戦略 — 法制度、準備金、ボンド、現地社会が直面する現実

エルサルバドル

2019年にナジブ・ブケレ大統領が掲げた「ビットコイン国家戦略」は、世界で最も野心的かつ論争を呼ぶ実験の一つになりました。法定通貨化、国の準備金への組み入れ、火山を活用したマイニング、そして「ボルケーノボンド(Volcano Bonds)」やBitcoin City構想――この一連の試みは、金融イノベーションのフラグシップとして注目される一方で、財政・環境・社会面での懸念も根強く残っています。本記事では、これまでの経緯を振り返りつつ、IMFとの合意や2025年の法改正など最新の動向を踏まえて、戦略の実態と今後の見通しを整理します。

経緯と主要な柱 — 「何を目指したのか」

法定通貨化(2021)

エルサルバドルは2021年にビットコインを米ドルと並ぶ法定通貨として採用し、世界で初めて国家レベルでの導入を行いました(当初の目的は決済の効率化、国際送金コストの削減、資本誘致)。

国の準備金としてのBTC買付

政府は価格のボラティリティを許容してでも長期的価値の蓄積を狙い、一定量のBTCを準備金として購入してきました(当局は毎日1BTCの買付を公表するなど長期保有をアピール)。

インフラと資金調達の計画

「Bitcoin City」や「Volcano Bonds(火山ボンド)」など、ビットコイン関連インフラとそのための資金調達スキームを掲げ、地熱エネルギーでのマイニングなども導入しています。

最新の法改正と制度整備(2024–2025年の動き)

IMFとの協議と法の修正

IMFとの融資交渉の過程で、2025年になってビットコインの「強制的受け入れ」を事実上撤回し、受け入れを任意化する改正が議会で可決されました。これは国際金融機関との合意を反映した措置で、法的にはBTCの地位は残しつつ実務面での強制を緩めるものです

機関向け・投資銀行枠組みの導入

最近可決された法案では、一定の資本金(報道では5,000万〜5,000万ドル規模というハードル)を満たす投資銀行/金融機関がデジタル資産サービス(BTC保有・運用)を提供できる枠組みを導入しました。これによりビットコインをバランスシートで保有する金融機関が法的に認められ、機関投資家の流入やサービスの正規化を図る狙いです。

政策の実務面:準備金・マイニング・ボンド

準備金の推移と買付方針の議論

政府は公式に保有BTCの蓄積をアピールしていますが、IMF報告とのあいだに「買付停止が示唆されている」との齟齬も報告され、透明性や監査に関する疑問が投資家や国際機関から指摘されています。

地熱マイニング

国内の地熱発電(LaGeoなど)を使ったマイニングは継続的に進められており、政府は火山由来の再生可能エネルギーで「低コストかつ脱炭素のマイニング」をアピールしています。これをBTC保有やBitcoin Cityの電力源に結びつける計画です。

Volcano Bonds(火山ボンド)計画の現状

構想段階での話題性は高かったものの、グローバル市場の状況次第で発行時期や需要が左右される点、また発行資金の半分をBTC買付に充てるといった設計は市場リスクを伴います。実際の発行や規模はその後の市場コンディションと政府の意思に依存しています。

社会的・環境的な反論とリスク

住民影響・環境問題

Bitcoin Cityや新空港建設など大型プロジェクトは、現地住民の移転やマングローブ破壊などの環境破壊懸念を生み、国際メディアやNGOから批判が出ています。持続可能性や地域の合意形成が十分だったかは大きな問題です。

財政・通貨リスク

BTCの高ボラティリティが政府財務に直接影響する構造は、外貨準備や負債管理の面で追加的な複雑性を生みます。IMFが指摘したように、中央集権的な財政運営とボラティリティの高い資産運用の組合せには注意が必要です。

なぜ今、機関向けの法整備なのか — 政策の意図を読む

正規化と資本誘致

個人向けの強制受け入れを緩和した一方で、機関・富裕層向けのサービスを合法化することで、海外資本の受け皿を作りつつ、リスクをプロ向けへ誘導する狙いが見えます。高純度の資本(大口投資)を狙って税制優遇や特区(Bitcoin City)を活用する設計です。

実務者・投資家への示唆(短期〜中期の観点)

投資家視点

法整備で機関がBTCを保有できるようになることは、サービスの整備(カストディ、OTC、換金流動性)を促進します。ですが国の政策リスク・透明性の課題は残るため、エントリーは制度整備の実行性や監査・コンプライアンス体制の成熟を確認してからが実行に移すのが賢明です。

政策面の注視点

IMFとの関係、ボルケーノボンドの発行可否、Bitcoin Cityの実地進捗、地熱発電とマイニングの統合度合い――これらが実務的なリスク/リターンを左右します。政府発表だけでなく、第三者監査や国際機関の報告にも注目してください。

まとめ

エルサルバドルは「ビットコイン国家モデル」の先駆けとして注目を集め続けています。2025年時点では、法的実務の柔軟化(受け入れの任意化)と同時に、機関向けの制度整備を進めることで実務的な正規化を目指す方向に舵を切っています。これにより短期的には海外資本の獲得や関連サービスの成長が期待されますが、透明性・環境・住民合意といった社会的リスクや、BTC自体の価格変動リスクが依然として政策成功の大きなハードルになっています。外部から見る限り、この戦略は「実験の拡大と同時に現実的な抑え」を図る段階に入った――と評価できます。

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Shota
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2017年末から暗号資産に投資してます。 ビットコインを始め、アルトコインについても情報発信していきますので、よろしくお願いします。